もうLOVEっ! ハニー!
第19章 友情の殻を破らせて
痛いと三回叫んでから降りたのは二秒後。
手が腫れたと差し出されて、優しく包む。
「かんなも、って言いたいけどこの手は傷つけられないからねえ」
助かりました。
「では、セットも揃いましたので、いいですかね」
ルカの言葉が空気を変える。
それから丁寧にスキンケアの説明が始まった。
「とりあえず試供品三日分お渡ししますので、朝夜欠かさずにお願いします。メンズが良ければ、放課後にでも買いに行ってくださると助かります。私はこれがオススメですけどね」
「女子って毎日こんなんしてるんよな。凄いわ」
「ボクは男だけどしてるもんね」
「先輩と松ちゃんも良かったら、使ってないブランドの新品いくつかあるので貰ってってください」
思わぬ収穫につい笑みが漏れてしまう。
「ありがとうございます!」
ルカの部屋からぞろぞろ人が出てくるなんて、明日は雪でも降るのだろうか。
亜季は階数を間違えたかと、ドキドキした。
「あら、亜季。奈己はピアノ室ですか」
「そ、そうだよ。なーに、秘密の花園パーティでもしてたのお?」
おどけた口調で尋ねつつも、答えを怖がっている自分が情けない。
岳斗と美弥がナイナイと手を振る。
「秘密の花園は亜季とナミナミでしょー。ボクらは健全に美容講座を受けてきただけ」
良かった、と無意識に思った。
でも、ルカの楽しそうな顔に心が曇る。
「それでは、日時が決まったら内線でお知らせしますね。今日は皆さんありがとうございます」
「本当に突然のお願いからすみません」
「松ちゃんはナイスアシストでしたよ」
朝の話か、と合点が行く。
三人が降りていくのを見送ってから、ルカの部屋の前に近づいた。
階段に手を振る笑顔の愛らしいこと。
自分に向けてくれることは無い笑顔。
「ねーえ、やましいことしてないよね」
そんな軽蔑する目を向けないで。
「用がないならドア閉めるけど」
「うそうそ。ちょっとねえ、奈己が元気ないみたいなんだけどぉ……今夜ボドゲでもしない?」
しばらく考える間が空く。
どうかイエスを。
「わかった。何時がいい?」
「七時から一時間だけ」
「奈己と何かあったの」
「痴話喧嘩じゃないよ」
また要らぬことを。
「じゃあ、あとで」
「うん。あとでね、ルカ」
自室に戻りながら小声で言い聞かせる。
嘘じゃない、嘘をついたわけじゃないと。