もうLOVEっ! ハニー!
第19章 友情の殻を破らせて
「というわけで、今夜ルカが部屋に来ます」
「……マゾなの?」
夕飯終わりの奈己の低い声にズーンと気が落ち込む。
だって、見抜かれてるから。
結局いくら約束を取り付けたって、男として二人きりになることなんてないこと。
ため息を吐きながら食器を洗い始めた奈己の背中を見つめる。
あのくらい身長があれば。
あのくらい色気があれば。
無い物ねだりだ。
「だって、奈己元気ないし。わいわいしたい気分だったしい」
「僕が元気ないのは、亜季がよそ見をやめないからだよ」
泡を水に流し、カチャリと籠に食器を並べていく。
どっちが担当ってわけじゃなくて、気分が向いた方が家事をするけど、今の奈己は気持ちを落ち着かせるために水に触りたいみたいだった。
「わかってるでしょ」
追い討ちをかける声に心がキュッとなる。
入学から二ヶ月後に告白された日のことをよく覚えてる。
あれも食器を洗っている時だった。
奈己が洗うのを邪魔するように背中に寄りかかったら、振り向いて濡れた手でハグされたんだ。
感触は忘れたことがない。
「わかってるよ」
洗い終えた奈己が手をタオルで拭い、そのままシンクに背中をもたれかける。
今は距離が欲しいように。
「何をするんですか、三人で」
「……ボドゲでも」
我ながら恥ずかしい提案だ。
でも今夜ルカに会えないなんて心が耐えきれない。
あんなに楽しそうに自分以外と話していたルカを見て。
自分の存在をアピールせずにはいられなかった。
悪あがきでしかない誘い。
「亜季。もう九月になりますよ」
「え、そうだね」
「僕らが出会って一年半。別れるまでも一年半だよ」
その声が震えている気がして、ついベッドから降りて奈己の目の前に駆け寄った。
顔を上げた奈己の目は潤んでいなかったけれど、悲しみに満ちていた。
「な……んで、そおいう切ないこと言うの」
卒業なんて。
考えてないし。
考えたくないし。
進路も人生もどうでもよくて。
輝いているルカと奈己が今のすべて。
冷たい手が腕を掴んだ。
見下ろしてくる視線に応えるのが怖くて、顔をそらす。
「が、ガク先輩の撮影の話とかさ、聞いてみようよ」
「一番聞きたくないくせに」
「そおだよ! だから焦って呼んだの! 無様で悪かったな」
ぐいっと引き寄せられて、胸板に顔がぶつかる。