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もうLOVEっ! ハニー!

第19章 友情の殻を破らせて


 大きな手が頭を支えて、腰にも腕が回されている。
「ちょ、奈己」
 動けないほど強い抱擁に、ペシペシと背中を叩く。
 数秒して解放されると、目線も合わさずに奈己は扉に向かった。
「食堂から何かもらってくるから、亜季は部屋を片付けておいて」
 呼びとめる言葉は口から出なかった。
 自分に向けられる好意を受け止められない歪な関係は、維持なんてできるはずもなくて。
 一年半も我慢を強いられた奈己の想いは、自分のルカへのそれよりも色が濃いのだけはわかる。
 報われない恋なんて心に毒でしかないのに。
 どうしてこんなにも近しい中で、矢印だけが間違ってるんだろう。
 ベッドにダイブして、枕に顔を埋める。
 抱きしめられた感覚がジンジンする。
 いつ鍛えているんだと思うほど筋肉を感じた。
 起き上がって、ベッドのシーツと布団を整える。
 あと三十分もせずにルカが来る。
 そしたらまた、安定した会話が始まるんだ。
 そしたらこの五分のことなんて、過ぎ去るんだ。
「最低だな……」
 つい自虐が漏れてしまう。
 どうせなら無理やり抱かれでもした方が救われたのかもしれない。
 もっと最低なことを考える。
 奈己は際限なく優しいから。
 部屋を変えることだって出来たのに。
 友情の隠れ蓑を便利に使い続けて。
 卑怯な自分のそばにいてくれた。
 バス酔いした時に介抱してくれたのも、ルカじゃなくて奈己だった。
 でも仕方ないじゃないか。
 ルカの笑顔を見るだけで全身が支配されてしまうんだから。
 引き出しにしまったゲームを布団に並べる。
 単純なバトルゲームもいいし、推理ごっこもいいし、平和な協力ゲームでもいい。
 しかもさらに最低なのは、口実を奈己にしたこと。
 ルカは聞くだろう。
 最近何かあったかって。
 奈己は言うだろう。
 別に何もって。
 幼稚な嘘はそこでバレて。
 魔法が解けて二十四時前に姫は部屋に帰ってしまう。
 推理にしよう。
 会話がしやすいし。
 ガチャリとドアが開く。
「ただいま」
「早かったねーい」
「バナナチップスと杏仁豆腐って組み合わせ笑うよね」
「手作り? すごー。美味しそうじゃん」
 何事もなかったように話しながら。
 スプーンと箸を用意して、サイドテーブルに並べる。
 ルカが来るまであと五分。
 バカな胸は高鳴っている。

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