もうLOVEっ! ハニー!
第20章 秘密のシャーベット
卑怯な本音だが、外にも居場所がある自分にとって、この三人が崩れることは人生に大きく関わることは無いから。
その余裕が奈己は気に入らないだろうけれど。
くくっと笑って背中を向ける。
「じゃあ僕も好き勝手やらせてもらおう」
ヒラヒラと手を振る背中は、友情に別れを告げているかのようだった。
同じ部屋で想い人と暮らす。
その悲痛な思いは計り知れない。
奈己の目線を見ていれば、誰しも亜季への本気を見て取れる。
それに応えず一年半。
堰を切って流れ出すには遅すぎるほど。
ルカは部屋に入り、すぐに懸垂機にぶら下がった。
自重を腕にかけて、思考を薄めるように。
今日は最高の一日だった。
撮影の日にはトレーニングにも熱が入る。
この体が財産なのだ。
悩みやトラブルで研鑽をサボる訳には行かない。
「ガク先輩、凄かったな……」
瞼の裏に今日の昼が蘇る。
あの存在感、目つき、生まれ持ったものだけでなく、鍛えて完成された肉体。
なぜ今までカメラの前に出なかったのか。
あのスタジオの誰しもが思ったはず。
そして、かんなの顔が浮かぶ。
遠い存在を拝むような、悲しむような。
ググッと顎を棒に近づけて、ゆっくりと腕をまた下ろしていく。
ヒリヒリとした痛みが肩を駆ける。
同行させるべきじゃなかったかもしれない。
あの顔を見てから過ぎった。
もともと寮がざわついた一学期、まさかあの二人が付き合うことになるとは思わなかった。
あまりに正反対すぎたから。
そして今となって、せっかくの逸材となった先輩が恋愛に揺れてしまう可能性に頭が痛む。
良い関係を続けてくれたら理想だけど。
恋愛なんて、健康を乱すだけ。
魅力を引き出し成長させてくれるとしても、代償に引き戻れないほど落としに来るのだから。
年上のモデルたちの不祥事を見てきた自分にとって、何より恐ろしいのが恋愛のこじれ。
アンナとのキスフレは、アンナに特定の恋人を作らせたくないという思いもある。
「アリスは、どうなるでしょうね」
今日の帰り道にアンナが口を滑らせたのを思い出し、腕に力が余分にこもる。
あの時の先輩の顔。
ああいう迫力はカメラの前だけにして欲しい。
ふうっと息を吐いて床に降り立つ。
ストレッチをしながら、暗くなった空を見上げた。
脳裏に奈己の背中が浮かんだ。