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幸せな報復

第24章 幸せな報復 

 *

 大学を卒業すると、恵美は大手建設企業の浮島建設に就職することになった。

 一方、浩志は都内の立川建築設計事務所で働くことになった。

 二人はそれぞれの場所で、新しい人生を歩み始める。

 仕事に追われる日々になるだろう。
 思い通りにならないことも、きっとある。

 それでも、恵美には未来が楽しみだった。

「なんだか、すごくワクワクするわ!」

 恵美は目を輝かせた。

「浩志くんと一緒に、これからどんな人生を作っていくんだろう……」

「ずいぶん前向きじゃない」

 エルザが笑う。

「もちろんよ。だって、これからなんだもの」

 恵美は久しぶりに、母・義美の待つ実家へ帰ることにした。

 そこで、浩志と結婚することを母に伝えるつもりだった。

 そして、いよいよ二人そろって、浩志の父・勘太郎にも結婚の報告をすることになった。

「ねえ、浩志くん」

「ん?」

「お父さんにも、ちゃんと結婚することを伝えようね」

「ああ。きっと喜んでくれるよ」

「うん……」

 恵美は笑顔で答えた。

 けれど、その胸の奥では、別の感情が静かに揺れていた。

 勘太郎に会える。

 そのことが、なぜか嬉しい。

 浩志と知り合うずっと前から、恵美は勘太郎という男を知っていた。

 もちろん、そんなことを浩志に言えるはずはない。

 ――だって、私に痴漢をした人だもの。

 恵美にとって、勘太郎は憎むべき相手だった。

 それなのに。

 なぜか、心から消すことができない。

「どうして……」

 恵美は自分でも分からなかった。

 あのときのことを思い出すだけで、胸が苦しくなる。

 怖かった。
 悔しかった。
 何もできなかった自分が情けなかった。

 それなのに、勘太郎との再会を考えると、心のどこかがざわめいてしまう。

「こんな気持ち……誰にも言えない」

 恵美はそっと目を伏せた。

 これから自分は、浩志と人生を歩んでいく。

 そのはずなのに――。

 勘太郎との再会を前にして、恵美の心には、誰にも知られたくない過去の記憶が蘇ろうとしていた。

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