どこまでも玩具
第6章 剥がされた家庭
伯母さん、泣いてた。
電話を切った後に罪悪感に苛まれる。
またすぐに電話が鳴る。
「……もしもし」
「瑞希! 大丈夫か?」
「金原……」
俺は堪えきれず涙を零した。
壁にもたれて座り込む。
「あれ、本当なのかな」
「瑞希……」
「金原はどう思う?」
母さん達、生きてるかな。
こんな残酷な質問、よくできるな。
俺。
金原が黙る。
「あり得ねーよ……」
俺は息を吐いてもう一度云う。
「あり得ねーよ」
電話は留守にした。
美里の元に戻る。
泣きはらした眼。
美里はまだニュースをぼーっと見ていた。
「――バスは峠より転落して、数百メートル転がったそうです。落下の衝撃で車体は歪み、漏れたガソリンに点火して爆発を起こしました」
「映画……みたい」
そのとおりだ。
「お兄ちゃん、美里たち、孤児になるの?」
胸が締め付けられる。
「まだ、母さん達は生きてるかもしれないだろ」
「生きてる……じゃあ、あの病院に連れて行って」
美里は画面を指差す。
それは、県境の総合病院だった。
今から出れば、八時には着く。
「……あぁ、行こう」
行ったら後悔する。
きっとする。
そう二人とも感じていた。
それでもこのまま眠るなんて不可能だから。
電車に揺られる間、ずっと床を見つめていた。
帰宅ラッシュを回避出来て良かった。
今は座らないと息できない。
電車が止まる。
美里の手を引いて降りた。
携帯のマップを頼りに病院に向かう。
見たことない街。
美里の手を強く握った。
「ご家族の方ですか」
看護師に案内される。
集中治療室かな。
病室かな。
そんな希望が打ち砕かれる。
運ばれたのは、霊安室。
周りにも沢山人がいる。
みんな、見舞いに来たんだ。
きっと。
「どうぞ」
足を踏み出す。
灰色の部屋に、真っ白な布。
俺は美里の手を離さないで、それを捲った。
「…!」
美里が後ずさる。
俺も驚いて身を引いた。
思わず口を塞いだ。
臭いを吸いたくなくて。
―エンジンに点火して爆発―
嫌だ。
こんなの嫌だ。
俺は涙を拭いて、美里を起こした。
「母さん……に、お別れしなきゃ」
「うそだよ……」
「美里」
嘘じゃないよ。
これは現実。
俺たちは、孤児になったんだよ。