どこまでも玩具
第6章 剥がされた家庭
「殺されるかなぁ……」
「えっ」
いきなり呟いた内容に驚く。
類沢はふっと笑って手を振った。
「いや、ほら。瑞希の家に見舞いに行ったなんて言ったら、あの二人にさ」
「……言わなくていいですよ」
俺もそんな気がする。
みなまで言わずとも察して、殴りかかるんだろうな。
何を察するんだ。
俺は赤面した。
それから自分を恥じた。
何を考えてるんだ。
今は喪に伏すことだけ考えてればいいのに。
類沢が紅茶を淹れる。
「アールグレイ、飲める?」
「飲んだこと……ないけど」
カップを受け取って、匂いを嗅ぐ。
いやされる。
優しい香り。
一口飲む。
あったまる。
「良かった」
類沢が微笑んだ。
「少し、元気が戻ったね」
それは、養護教師の言葉なのか。
一人の人間としての言葉なのか。
わからない。
わからないけど、思いやりを感じた。
「……あ」
「恨んでるよね」
礼を言おうとして遮られた。
類沢の目に冷たい影が差している。
「恨んでるよね、今までのこと」
重複する問い。
凍てついた瞳。
背筋に寒気が走る。
「それから」
類沢の唇が動く。
「動揺し始めてるよね」
びくりと肩が強張る。
気づかれてたのか。
「僕が、瑞希に対してだけ態度が違うんじゃないかって」
カップがカタカタ震える。
目線をあわせられない。
類沢はカップを置いて立ち上がった。
それから俺の隣に来て、頭に手を乗せる。
「それは本当だ」
嘘だ。
俺は類沢を見上げる。
嘘だ。
嘘がいい。
「だって、瑞希は」
唇が持ち上がる。
丁度十時のチャイムが鳴る。
それに重なり、その言葉が聞き取れなかった。
余韻が消えてから、類沢はコートを取る。
「……お大事にね」
消えるように玄関から去ってしまった。
扉を見つめる。
なんなんだ。
なんて、言ったんだ。
―だって、瑞希は―
都合の良い性処理か。
あいつなら言いそうだ。
いや、違う。
もっと、重い言葉だ。
滅多に言わないような。
だめだ。
疲れた。
ベッドに倒れ込む。
ぼふんと。
さっきまで、類沢と二人きりだったんだな。
違和感が今更出てくる。
彼の過去を聞いてさ。
いいや。
夢の中で整理しよう。