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どこまでも玩具

第6章 剥がされた家庭



 久しぶりに夢を見た。
 昔の夢。
 女の子がいた。
 確か小学生の時。
 好きとかじゃなくて。
 ただ、毎日一緒に遊んだ子。
 西河南。
 二つ結びが似合う子だった。
 美里とも気があって。
 よく三人で遊んだ。
 楽しかった。
 その河南が目の前にいる。
 成長した姿で。
 髪、長さ変わらないな。
 でも顔つきは違う。
 綺麗になった。
 目は大きなまんま。
 茶色がかった髪。
 草むらにいた。
 向かい合って。
「瑞希ちゃん」
 そうだ。
 お互いちゃんて付けて呼び合ってた。
 なに? 河南ちゃん。
「元気?」
 元気。
 そんな一言に涙が溢れる。
「瑞希ちゃん?」
 ううん。
 元気じゃないよ。
 俺、もう限界だよ。
 河南が手を伸ばして俺の手を握る。
 そして、ゆっくり撫でた。
「辛いの?」
 うん。
 辛いよ。
 生きてるのが。
「みんな支えてくれてるのに?」
 みんな?
 みんなって誰。
 河南が指を折りながら数えるように名前を挙げる。
「圭吾くんに哲くんに、一夜くんに千夏くんに三嗣くん。それから……」
 随分いっぱいいるね。
 それから?
 河南はにこりと笑って手を離す。
 河南?
「私と」
 彼女は自分を指したあと、俺の方に指を差した。
 俺の後ろを。
「雅先生だよ」
 サァッと風が吹く。
 背後でクスクス笑い声が聞こえる。
 類沢がいる。
 わかる。
 影も見える。
 振り向きたくない。
 振り向きたい。
 見たくない。
 見たい。
 矛盾がせめぎ合う。
「瑞希」
 やっぱり、この声だ。
 俺はそっと後ろを向いた。
 光を浴びたシルエットがそこにある。
「先生……」
「そこから出られそう?」
「え」
 類沢は草むらの少し上の石段の上に座っていた。
 俺に手を伸ばして。
「手伝わせてくれないかな」
「いきなよ」
 河南の声がする。
 行きなよ。
 生きなよ。
 どちらにもとれた。
 俺は息を吐いて、足を踏み出す。
 同時に景色が消えて、保健室に座っていた。
「今日はどうしたの?」
 初めて会った時の類沢がいる。
 傍らには消毒のボトルも転がってて。
 静かな放課後。
「今日は……疲れました」
「そう…」
 類沢は困ったように顔を緩ませて、立ち上がった。
「そんな日もあるよ」
 僕は沢山経験したよ。
 背中はそう言っていた。

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