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あの店に彼がいるそうです

第12章 どんな手でも使いますよ

 立ち去りかけた圭吾が少し上からものを言うように続けた。
「あーそうそう、秋倉さん。今どきドアの暗照キー、番号で八桁とかセキュリティ甘いです。指紋跡も残ってましたし、静脈登録をお勧めしますよ」
「あぁ?」
「じゃあオレはこれで」
 タタッと軽快に夜道に消えた圭吾をいつまでも秋倉は見送る。
「なんであいつ……」
「あの男はケイの息子の金原圭吾。苗字くらい聞き覚えあるでしょう」
「まさか……」
 ジャラン、と手錠を鳴らしながら首を掻く。
「恐ろしいねえ」
「GPSか? ここに来るのは予定外のはずで誰も知らな……」
「予定外? ははっ、あれだけ態勢整えといて?」
「お前に執着していることを知る人間は少ない」
「そうかな。小木とか簡単に情報売るかもよ。高値なら。まあケイから貰ったのかもしれないけど」
 そこで思い出したように静まり返った自宅を振り返る。
「一体誰が来ているんだ」
「わざわざあいつを通しているんなら、あんまり期待は出来ないお茶会になりそうだね」
「お前は肝が据わっているな」
「貴方が頼りなさすぎるんですよ。自宅前で何をうだってるんです、僕をここに連れてきたのは庭でも見せて自慢するためですか」
「あーっくそ、早く入るぞ」
 がしがしと頭を掻きながら乱暴に入っていく秋倉の後ろに続く。
 今なら簡単に逃げれるんだけど。
 手錠を見下ろしながら一瞬そんなことを考えたが、あのケイの息子だ。
 周辺に見張りも用意してあるんだろう。
 闇に沈んだ道路を一瞥して、足を踏み出す。
「……二人、ね」
 灯りのつけられた廊下を進みながら、妙な胸騒ぎを感じていた。
 今までの岸本忍や、瑞希と鵜亥の騒動など比べ物にならないような予感。
 バカげてる。
 今ここにいる意味を思い出せ。
 瑞希のためにみんなが動いているんだ。
 要件が済んだならすぐに此処を出て、帰らなければ。
 ギシギシと、踏みしめる足音が耳に響く。
 リビングに近づく。
 先に入った秋倉が、一瞬で吹き飛ばされるように戻ってきた。
 つい足を止めた目の前で背中から壁にぶつかる。
 頭を強打して、そのまま秋倉がずるずると倒れた。
 思考が停止する。
 何が起きた。
 何で、秋倉が、撃たれた?
 血は出ていない。
 麻酔弾か。
 そこまで考えたところで出てきた影に腕を引かれた。
 細く、未熟な手に。
「よかった、来てくれて」

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