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あの店に彼がいるそうです

第4章 超絶マッハでヤバい状況です

 バーのベランダで夜風を浴びる。
 コンと音がして、篠田が隣に来た。
「ウイスキー?」
「あぁ」
 いつもはワインなのに。
 風が髪を揺らす。
「春哉、詳しく教えてよ」
 篠田がグラスを見つめる。
 名前で呼ぶのは、慎重な話があるとき。
 今日の事態は、危険な臭いがする。
「バックに誰がいるの」
「……確信はないんだがな」
「いいから、言いなよ。僕も裏が取れなきゃ動けない」
 低く笑って、篠田は口を開いた。
「最近ガヴィアが好きにやり始めているだろう」
「そうだね」
 まだ、うちにまでは勢力が及んではいないが。
 雛谷の店も手につけている。
 そう聞いた。
「あの店のホストに罪はない。あそこの支配人のタチが悪いんだ。だから……相手にするのを避けていたんだが」
 酒に口をつける。
 珍しく、口調が遠慮がちだ。
 余程嫌な組織が絡んでるんだろう。
「他の客のリストを売る"名義屋"ってのが今歌舞伎町の中で有名になっていてな」
「"名義屋"?」
 聞いたことがない。
「ま、ホストで知っている奴はいない。だから、ホストには自覚が無いんだ。他の店の客を盗んでいることを。名義屋と支配人が契約を結んで、女達の連絡先を利用して一箇所に集める。後はホストの力量に任せてって感じだ」
「指名制が働いてないってことか」
「今じゃ荒れに荒れている。うちみたいに一人の客が一人のホストを指名し続ける方が少なくなって来ている。ホスト同士の情報に乱れが生じているからな」
「それと今日の客にどう関係が?」
 手すりを指で打つ。
 トン。
 トン。
 考えをまとめるように。
「今日の奴らはガヴィアに"名義屋"として出入りしている連中だ」
 類沢は目を見張った。
 言いたいことがわかったのだ。
「そうだ。多分、今度はシエラの客の情報を掴みに来たんだろうな。今日のは下見ってところだ。歌舞伎町NO.1のお前のな」
「だから、いなくて良かった…ね」
「そういう訳だ。あと、嫌な噂がもう一つある」
「ナニ?」
「……いや、もう少し見てから話そう」
「そう」
 素直に引き下がる。
 こういうときに詮索しても良いことはない。
 二杯目が運ばれる。
 篠田はグイッと飲み干した。
 相当疲れている。
 類沢はその横顔を見て、胸が痛くなった。

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