テキストサイズ

雨とピアノとノクターン

第10章 暗躍編:借り

「……そうか。やはり向こうから仕掛けて来たか」
「はい…。薬師寺と浦原はいつも通り繋がっていました」
「まったく…。生徒会長の椅子なんて何の価値があるんだろうな。欲しかったら今すぐに譲ってやるけど」
 先ほどの薬師寺と浦原の会話はすぐに井野口によって佐屋の耳に入っていた。
「佐屋様、それは……私どもが困ります。あのような無能な輩に牛耳られては…」
 井野口は佐屋の冗談に本気で困惑したような表情を見せた。
「井野口は心配性だな。大丈夫。僕がこの学園にいる間はそんなことにはならないよ。それに、井野口はとても頼りになるから」
「はい、恐縮です」
「起震車の件は、《彼》に伝えておいてくれるかな?」
「承知いたしました」
「まったく……《彼》があっさりノッてくれるとは思わなかったけれど、根は良いヤツなんだろうな。僕の直感も案外当たるものだよ」
「そうですね。では、失礼」
 井野口はそう言うとまるで風のように素早く何処かに去っていった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ