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雨とピアノとノクターン

第10章 暗躍編:借り

シェイクアウト訓練、いわゆる防災訓練は年に一度は執り行われている。主催する生徒会も本来ならPTAに頼りがちな場合が多いが、これはかなり主立って動いている。
 佐屋は起震車や防火訓練用の煙体験ハウスなどを見て回る。先ほど井野口が言っていたように起震車の屋内を想定した家具に不具合の仕掛けがされていた件は気付かないふりをする。無論、仕掛けたと思われる薬師寺と浦原に判らないように危険は取り除いておいた。
「まぁ、やられたからにはお返しするのが僕の考えではあるが…今回はその裏を描いてるつもりだし」
 佐屋は静かに笑う。もしも鳴海が見ていたら“怖ぇーよ”とツッコミを入れてくるのだろうが、あいにく彼は謹慎中だ。
「……鳴海が帰る場所を取り戻すために、僕は徹底的にやるさ」
 佐屋は気を引き締めるように口を結んだ。そして校庭の隅に設置されたドイツ製の放水装置の影に潜む人影に向って大きくうなずいた。《その人影》は佐屋の合図に親指を立ててみせるのだった。

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