テキストサイズ

雨とピアノとノクターン

第1章 出会い編:金髪の野良猫

「佐屋様…」
 そして…鳴海が知り得ない、もうひとつの僕の顔がここにある。背中越しに呼び止められた僕は、振り返ることなく答える。
「…井野口?」
「……理事長の反対勢力が結託して、何か不穏な動きがございます。広報部の部長が、理事長のマイナスイメージになるようなスクープを掴んだとか…」
「……無視して構わないさ」
「……ですが、佐屋様、ヤツは薬師寺の息がかかった人間です。今のうちに手を打たれては?」
「……何故、そこまでこだわる?」
「……野放しにしていては、やがて佐屋様のご学友、鳴海様にも危害が及ぶやもしれません…」
 井野口颯《いのぐちはやて》は僕の忠実な下僕だった。そう、彼は僕が秘密裏に暗躍する組織の指揮官だ。
 そして僕のもうひとつの顔…学園の秩序と安寧を守る、秘密警察のTOPとしての顔だった。
「……では、鳴海が歓楽街でボコられていた事件は、誰か糸を引いているものがいると?」
「…恐れながら」

 …だろうな。そうでなければ、わざわざ僕のバイト先の近くで、しかも通り道に不自然に鳴海を捨てる必要があったか…となる。
 鳴海と僕の出逢いを仕組んだヤツ…か。なかなかやるじゃないか?僕も随分となめられたものだ。
 僕は思わず苦笑いをした。そのおかげで、僕は今、鳴海と暮らして楽しい日々を送っているわけだが…。

 …そんなことをするのは、君しかいないよね?

 ………………浦原誠二《うらはらせいじ》。
「…井野口、浦原誠二を徹底的にマークしてくれるかな」
「招致しました…。では、失礼」
 井野口は軽やか去っていった。

 それにしても……君は、何を考えているんだろう?
 誠二君…。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ