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雨とピアノとノクターン

第5章 ピアノ編:覇者の美学

「…どう思う?鳴海?」
「…どう思うったって…、なんで素直にピアノの弾きくらべって手紙書けねーんだよ?なんでオレを賭けなきゃなんねーんだっ?」
 青葉学園の生徒会執行部、生徒会長宛てにピアノ勝負の申し入れの手紙が届いたのは、数日後のことだった。“面白い手紙が会長宛に来ているよ?”と、薬師寺が嬉しそうに封書を持って来たのだ。
「…暁学園高等部三年、台場翔…」
 佐屋は名前だけなら聞いたことがあった。地元主催のショパンコンクールで、必ず上位に名前があった記憶がある。
 よほどの自信がなければ、こんな勝負、挑んでくるはずがない。よりによって鳴海を賭けて云々…というのは、おそらく、主目的はただ、ただ、鳴海であり、ピアノ勝負は単なる手段でしかないのだろう。
「…なぁ?佐屋?この勝負…ホントに受けるのか?」
 鳴海はやや不安そうに言った。
「そうだね…。せっかくのお誘いじゃない?」
 佐屋はニヤリ…と笑った。こんな顔をする時の佐屋は、正直、とても怒っているときが多い。

 笑いながら怒る特異体質…ほんと、怖ェェ。

 などと、鳴海はむしろ怒りを向けられた相手に心底同情したくなる。

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