テキストサイズ

雨とピアノとノクターン

第5章 ピアノ編:覇者の美学

腕を掴まれて台場にぐいぐいと引っ張られて行き着いた先は、青葉学園と比べるとやや小ぶりのホールだった。それでも、客席がコンサートホールさながらの立派な作りで、音響がかなり整っているようだ。
「コイツはオイラ専門のベヒシュタインだ、うん。オイラは暁学園をピアノの特待生って名目で入ってるからな…うん。ま、ピアノだけじゃなく、アートならなんでもござれだ」

 ピアノの…特待生!?

 鳴海の眼がそのとき皿のように丸くなった。そんな彼に一切気を留めることなく、台場は慣れた手つきで、ピアノのスツールを引っ張り出してきた。
「オイラはショパンが得意だけど…ま、あれだ。今回はオイラの情熱的な戦いだからなー、うん。クールで熱いベートーヴェンでゆくからな。これで青葉の生徒会長も秒殺だな」
 台場は自分専用の自慢のベヒシュタインを前にすると、目を閉じ、深呼吸した。何から何まで自分の世界にいる住人に鳴海の抗議は届きそうにない。
「いくぜ!アンタのために弾いてやる。ベートーヴェンのピアノソナタ23番、熱情。長げェから有名どころだけチョロっとな」
 そういうと、いきなりファンファーレのように鍵盤をバーン、バーンと叩くイントロダクションで、台場は超絶な運指を見せ始めた。

 な…なんだよ、コレ………?

 鳴海はピアノに対してはずぶな素人だ。だが、台場のこのスピード感と完璧な指運びに息を飲んだ。それに技術だけではない、曲の表情、動と静の扱いがまるで違う!

ストーリーメニュー

TOPTOPへ