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雨とピアノとノクターン

第5章 ピアノ編:覇者の美学

こんな…こんなことって……!!

 思わず鳴海に不安がよぎる。いくら佐屋がピアノが上手いからって…勝てる…のか?コイツに…?

 コイツ……ハンパじゃねぇ…。

 コンピューター並みの奏法記号を次々とクリアし、プラルトリラーの連続技。どれをとってみても完璧である。
 これだけの技術を持っている台場だ。自分の演奏にすっかり酔いしれている。
 鳴海は心臓を鷲掴みされたように苦しかった。なぜなら、台場の演奏は一層自分を不安に駆り立てるものであったから。
 何よりも…佐屋を最初にして最後、唯一屈服させる男ではないだろうか?
 演奏が終わる頃には、鳴海は今にも泣き出しそうな表情になっていた。
 
 見たくない…。

 今まで、どんなに|他者《やつ》全方面から挑まれても、絶対に負けなかった完璧な佐屋。常勝の彼が、もっとも得意とするこのピアノで、もしも負けてしまうとしたら…。
 そう思うと、鳴海は恐怖で震えた。
「………………っ!!」
 鳴海はその場を逃げ出すように走り出した。
「…おいっ!ちょっとまった!!一緒にアートな話題を語ろうって…言おうと思ったのに…」
 台場は残念そうな顔をしたが、ま、いいか…と鳴海を追うのを諦めた。


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