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雨とピアノとノクターン

第6章 ピアノ編:完敗?

 引き終えた佐屋が大きなその瞳を開いたとき、やっとグランドピアノの向こうに立つ、鳴海に気付いた。
「…おかえり、鳴海。ごめん、気付かなくて」
「…いいよ。すげー一生懸命だったから、邪魔するのも気が引けた」
 どことなく元気のない鳴海に、佐屋はすぐに気付いた。
「…どうか…した?なんだか元気がないみたいだよ」
「…うん。なぁ、佐屋、今日…オレ、暁学園に|話《ナシ》付けようと思って、台場翔に会ってきた…」
 それを聞いた佐屋の顔がわずかに厳しい表情になった。
「……会って、何を話すつもりだったの?」
「やだったんだ。オレ…佐屋が大好きなピアノで勝負なんて、すんげーイヤだって…。だからやめてくれって頼むつもりだった…」
「……心配してくれているの、鳴海?」
「……アイツ、今度の勝負に弾く曲だって、オレの前でピアノ弾いたんだ。ベートヴェンの“熱情”だって。そしたら……アイツ、ハンパじゃねぇほど上手くてさ…」
「………そっか。第三楽章か。やってくれるなぁ。僕の曲より少しだけ長い」

 でも、難易度は同じくらいだよ?と佐屋は笑った。

 曲調からして、まさに男同士のプライドのぶつかり合いのような激しい曲同士になりそうだった。ある程度予想はしていたが、佐屋も少し考えこんでいた。
「台場君なら、得意のショパンでくると思ったから、僕もショパンを選曲したのに、肩透かしだったな…」

 仕方がないか…。残り一週間で弾けるだけ弾きまくるしかない。

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