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雨とピアノとノクターン

第6章 ピアノ編:完敗?

「ん……?鳴海?今日は休むって言ってなかった?それとも手伝ってくれる
つもりなのかなー?」
 マスターのタカシが鳴海の淋しげな様子を瞬時に察知したのか、いつもよりもちょっとわざとらしくおどけて優しい。
「……マスター、佐屋って、すんげぇ馬鹿だ」
 カウンターにどっかりと座った鳴海をちらっと見ながら、タカシは『何をいまさら…』と笑った。
「今頃気付いちゃ…ねぇ…?アノ子、お宅に関わると、とんでもないほど馬鹿に変身する奴だと気付かなかった、鳴海?」
「……だからって、大好きなピアノで、あんな奴と勝負なんて…」
 タカシは布巾で皿を拭きながら、呟くようにして言った。
「事情はよく知らないけどさ、誰だって好きだから…負けられないって、思うのは当たり前だと思うよ?お前も男だったら、そーゆー佐屋の一途なとこ、見守ってやんないと可哀想じゃないの?」
「…………」
「…オレ、お前に話したっけ?」
「……?」
「…佐屋の亡くなった両親、二人とも有名なピアニストってことは知ってるな?特にオヤジさんの方、ジャズを弾かせたら超絶上手くてさぁ…。オレ、CDも持ってんだよ…。だから佐屋が偶然うちにバイトに雇ってくれってきたときは、心底驚いたよ…」

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