テキストサイズ

雨とピアノとノクターン

第6章 ピアノ編:完敗?

「…………。」
「…でね、バイトの面接の条件ってオレの前でピアノを弾くことだったんだけれど、佐屋、その時何弾いたと思う?」
「……?わかんねーよ、オレ、曲詳しくねーし」
「曲じゃないよ、ジャンルだよ、ジャンル!アイツ、よりによって酒場の面接でブラームスの子守唄を弾いてみせたんだよ…?ありえないでしょ、フツー?」
 タカシは当時を思い出すようにして鳴海に語り続けた。
「なんで?って聞いたら、今までクラッシックしか弾いたことないし、母親との思い出の曲だって言ってたよ。それだけ、ピアノはアイツにとって生きている時間の一部なんだ。それを手段にしてまで、アイツはお前を対戦相手から守ろうとしてる…」
「……………!」
「お前が、佐屋に愛されてる証拠だ。意味、わかるよな、鳴海?」

 うん…。わかってる…。
 佐屋はオレが想像つかないくらい、オレのこと、大事に愛してくれているって…。

「……帰るよ、マスター」

 受け止める…。
 結果がどうあれ…オレの心は佐屋から微動だにしねぇ…。

 鳴海の頭上を、歓楽街のネオンに負けまいと、小さく小さく、一等星が輝いていた…。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ