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雨とピアノとノクターン

第7章 文化祭編:ラストダンス

「べ…べつにいいって。佐屋のせいじゃねーし。しょ…しょうがねーじゃん、そんなこと」
 ほんのわずかだが、渡り廊下の立ち話でこんなに幸せな気持ちになれたのは、久しぶりだと思う鳴海だった。

 オレって…ホントに佐屋が好きなんだ…。

 佐屋の為を思い、自分はなるべく目立たないように気遣ってきた鳴海だった。頭髪や瞳の色など、生まれつきなものは仕方がないにせよ、着崩していた制服もきちんと着るようになったし、他校の生徒との暴力沙汰もなくなった。
 なにより、授業をエスケープしなくなったのも奇跡に近い努力だと我ながら思った。

 だけど…

 本当にすれ違いが多くて、淋しかった。我慢に我慢を重ねてきたが…今更のように気付いたことがある。もう、数週間も佐屋の肌と触れ合っていない。
 恋人として同じ家に住み、当然のように同じ褥で佐屋と肌を合わせて眠っていたというのに。
 恥ずかしくて時に佐屋との行為を拒否せずにはいられないこともあったけれど…今思うと、その羞恥はバカみたいな意地だったと彼は思えてくる。
 鳴海は今更ながら自己嫌悪に陥った。

 佐屋が欲しい。佐屋に触れて欲しい。佐屋に包まれて溺れたい。
 待っているだけじゃダメなんだ…。
 たまには…自分から佐屋に甘えてみよう…。

 そんな気持ちだけが彼を動かしていたのだ。

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