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担当とハプバーで

第6章 墓まで連れ添う秘密たち


 サアっとお腹に冷たいものが走る。
 祥里。
 ハヤテ。
 今は一ミリだって触れたくない祥里。
 今夜が永遠に続いて欲しいハヤテ。
 でも何百回と身体を重ねたのは祥里。
 結婚を夢見た。
 今、私はどこにいる。
 露天風呂の隣のダブルベッドの上で、ホストと二人。
 とっくに祥里を裏切ってるのに、まだ選択肢に入れている自分の厚かましさにハッとする。
 ハヤテの言う通り。
 別れたかった。
 別れようと思ってハプニングバーに行った。
 バレたらどうせ別れることをしたんだ。
 でも、ここで帰れば、ハヤテに二度と会うこともしなければ、日常に戻れる。
「思ったより悩むじゃん。何年付き合ってんの」
「四年……」
「よくそんなに続くな」
「後半二年は……妥協だよ」
「どうする?」
 そう言い残すとハヤテは身体を起こして、ベッドの上の壁に背中を預けて座った。
 伸ばした脚が顔の前にある。
 急いで起き上がる。
 焦る私の動作をおかしそうに眺めて。

 ハヤテは

 悪魔の

 二択を出した。

「泊まるなら前みたいに咥えて」
 それから洗面所を指差す。
「泊まらないなら服着て」
 ああ。
 私に選ぶ権利なんて。
 なかったのに。
 どうして、選べると思ってたんだろう。
 どうして、安心してしまったんだろう。
 シーツに拳を押し付ける。
 ハヤテは涼しい顔して腕組みをする。
「十秒以内に決めて」
 時間だってくれない。
「十、九……」
 ホストクラブで指遊びをした時みたいに。
 なんの意味もない数字みたいに言う。
 一秒ごとに追い込まれるのに。
「八、七」
 どうしよう。
 どうしよう。
 もっと一緒にいたい。
 でも朝帰りは言い訳できない。
「六、五」
 目だけは欲望に忠実にハヤテのモノを見てしまう。
 あれをまた舐めて気持ちよくさせたい。
 あの余裕のない声をまた聞きたい。
 幸せな気持ちになって朝まで一緒に寝たい。
「四……あと三秒で決めれる?」
 ああ、少しの情け。
 容赦無くカウントダウンを済ませることもできたのに。
 あのマンションの部屋が浮かぶ。
 電気は消えてる。
 いつも電気を点けるのは私。
 祥里が待っていてくれたことなんてほとんどない。
 家事の一つだって。
 私を喜ばせること一つだって。
 ぎし、とベッドが軋む。
 荒い息のまま、ハヤテに近づく。

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