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担当とハプバーで

第6章 墓まで連れ添う秘密たち


 凛音がやめてと叫んだ時、祥里は暗い部屋のライトをパチンと点けた。
 靴を脱ぎながら、人気のない空気に眉をひそめる。
 今日は火曜日。
 凛音から遅くなる連絡はない。
 ジャケットを脱いで食卓の椅子にかけながら、朝のままの空間を見渡す。
 ポケットの中の携帯が震えて、取り出すと、さっきまで一緒にいた同僚からの通知。
ー部長回避乙。明日は長そうだなー
 スタンプだけを返す。
 二年前から配属された今の部署は、経費が落ちるという理由だけで頻繁に営業先と飲み会がセッティングされる。
 さらには部長のキャバクラ遊びに連れてかれる。
 あまりに浴びるように酒を勧められるから、何もない日すらも一人でバーを使うようになった。
 アルコールが抜けるのなんて日曜だけ。
 万年偏頭痛がする。
 初めのうちは凛音に細かく話していたが、そのうち飽きたような反応と、家事ができていない情けなさも相まって、いちいち社内の話をしなくなった。
 今年の春に仲の良かった同僚が辞めてから、転職先に引き抜こうと毎週のようにサシ飲みに誘われて、断りきれないでいるやるせなさも。
 営業先の女性に飲み会終わりにしつこく誘われて、ハシゴ酒して潰した後でタクシーに預けたことも。
 懇意にしていた取引先の倒産で売上げが落ち込んでいることも。
 学生時代からの友人が離婚危機で電話で相談を受けていることも。
 何一つ、凛音には話していない。
 疲れ切った体で凛音と夜を共にしても、最後まで達せずにプライドが折れて頻度も減っていった。
 何年も満足させられなかったかもしれない。
 魔がさしてキャバ嬢とアフターに行ったこともある。
 何度か。
 その罰か。
 ホーム画面をスライドし、週末に入れたアプリを開く。
 パスワードを入力して、二つ並んだ端末名称の下の方を選んで押す。
 すぐに簡易な地図が表示される。
 赤いピンの場所をズームアウトしていく。
 大きな交差点から、海辺に近い道路。
「……んなとこでナニしてんだよ」
 苛立ちを含んだ声は誰の耳にも入らず。
 薄暗い室内で祥里は立ち尽くした。
 すぐに凛音の番号に電話をかける。
 呼び出し音が長く響く。
 その音は大きなテレビ脇のバックの中で虚しく鳴り、浴室の向こうにいる凛音には届かない。
 三回ほどかけた後で、携帯をテーブルに置いた。
 帰ってきたら、理由を聞かないと。

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