担当とハプバーで
第7章 皮肉のパーティ
気づくとバーの前に足を止めていた。
凛音がそこに立っていた映像が路地に重なって、ハヤテは自嘲気味に息を漏らす。
この建物の中で何十人と身体を重ねた。
キャバ嬢、モデルの卵、舞台女優、大学生、人妻と皆様物好きが集まってくる。
ビルを見上げて無性にタバコを吸いたくなったので、エレベーターでバーの階に上がって受付を済ませると、そのまま喫煙ルームに向かった。
使用料は決して安くないこの空間は、非日常にどっぷりと漬け込んでくれる壺だ。
煙を天井に向かって吐きながら、首の後ろをなんとなく指圧した。
カップルで訪れる酔狂な男女もいる。
他人に抱かれる彼女を血走った目で見ながら、恍惚と自慰に浸っているのは滑稽だった。
あの日、凛音の隣に立っていた金髪を思いだす。
あの大柄な体に組み敷かれるくらいなら、早くこっちに逃げてこいよと誘った瞬間。
吸殻を潰してから二本目を咥える。
朝帰りして彼氏とどう折り合いをつけたのか。
連絡が来ない時点でなんとか続いていく方に転んだのだろう。
ああ、何故急に寝取られ願望の変態が過ぎったのか理解した。
「永遠の二番手、か」
誰もいない小さな部屋に虚しく響く。
ホストというのは都合のいい代理品だ。
もちろん他に本命を作らずに、沼に浸かって抜け出せなくなる層も居る。
だが、大抵は一番がいる。
姫の話の六割はパートナーの愚痴だ。
そこに上手く話を合わせて、逃げ場となる理解者を装って、次の約束を取りつける。
別れたと思えばもう次の相手がいる。
次の選択肢にホストが選ばれることは無い。
色恋営業をいくら続けたとして、そこから彼女になる姫など、ひと握りの中のさらにひとつまみ。
ジジっと指先に感じた熱に、ほとんど吸わなかった二本目を押し潰す。
都合がいいのはお互い様だ。
一夫多妻制でもないこの国で、複数の女性に甘い言葉を吐いて金を落とさせて。
告白されても彼女にする気もないのに。
そんな虚しさに自分がどうしようもない存在だと思ったのが三年前。
引退後の人生に望みをかけようと思った。
それが突然現れた凛音に揺さぶられた。
それだけ。
それだけのこと。
苦い息を零してから、バーに戻る。
目が合ったショートヘアの長身に笑いかける。
彼女も妖しく微笑んだ。
ほら、代理品はここにも集う。