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担当とハプバーで

第8章 最後の約束


 豪壮なシャンデリアの下、小ぎれいなスーツに身を包んだ若い男を相手に、異様に乾いた喉を冷たいアプリコットティーで潤しながら話に耳を傾ける。
 隣に座る祥里の顔は真剣そのもので、時々頷く首には緊張が走っている。
 白を基調にした壁には花束が並び、美しい洋楽のオルゴールが空間を彩っている。
「本日見学いただいた会場は最大六十名規模となっております。隣の棟はより親密な方々のみの三十名規模の会場になります。身内のみのアットホームな式では、そちらを選ばれる方が多いですね」
 男の口調は小気味よく耳を抜けていく。
 ここで数百人の晴れの日を見送った人は、今目の前の二人をどう評価するんだろう。
 空になったグラスから手を外せないまま、タブレットに流れるオープニングムービーをじっと見つめる。
「お日取りはいつぐらいが良いというのはございますか」
「そう……っすね。一応春先を考えてます」
 祥里の言葉にこくりと頷く。
 あの生々しいプロポーズの夜から一ヶ月。
 まるでその言葉の実現に急ぐように式場を巡った。
 本命として最後にしたこの会場は、海沿いのチャペルで、いつもモノレールから見ては荘厳な外観に心を躍らせていた。
「それでは空き状況を確認させていただきます。新婦様、お飲物いかがですか」
「えっ、あ。じゃあ同じものを……」
 優雅な動作でグラスを引き下げ、去っていく背中を見送る。
 結婚式、か。
 友人のに参列はしても、自分がその主役に立つイメージはとてもつかなかった。
 隣の祥里が白のタキシードを着ているのも。
「あいつ俺より年下だよなあ」
「そうじゃないかな。若い感じだよね」
「なんかしっかりしてんなあって」
「祥里も十分営業ライクだったけど」
「それ褒めてねえだろ」
 軽口を叩いても豪華な空間では上滑りして、それが余計におかしくなって口が緩む。
「フォトかと思ってた」
「ああ。でも凛音付き合ってた頃めっちゃ結婚式願望あったじゃんね。両親に見せたいって」
「覚えてたんだ」
「まあ俺も親孝行の一つになるし。あと普通に凛音のドレス見たいし」
 こそばゆい。
 海沿いのチャペル、白い花びら、純白のドレスに幸せな笑顔あふれる空間で、式を挙げるんだなあ。
 分厚いパンフレットの山に手を伸ばす。
 思っていた以上に決めることがいっぱいだ。

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