担当とハプバーで
第1章 止まらぬ欲求
ハヤテが戻ってくる気配はなさそうなので、早めに会計をお願いすることにした。
イオルも可愛いけれど、これ以上長居してハヤテを待てば、注文が倍になってしまう気がする。
「今宵もありがとうございます」
ニイノが見送りに来てくれた。
「また来ます」
「いつでもいらしてくださいね」
店から一分も歩けば、そこは馴染みのない夜の街。
ホテル街をなるべく省略して抜けて駅に向かうが、どうしても目に入るのはむき出しになった夜の空気を携えて、路地に入ってくる男女ペア。
冗談かと思う年の差のペアもあり、足をよく見れば男性同士だったりする。
ここはどんな性でも受け入れる場所なんだろうな。
自然と早足になるが、信号で立ち止まる。
なんとなくビルを見上げると、たくさんの店名。
中には階数と店の名前の数が合わないことも。
店ではないのか、看板が出せないのか。
客引きへの警戒アナウンスが鼓膜に響く。
ここは楽しい思いはできても、危険も多い街。
「お姉さん、これから暇ぁ?」
思った矢先に二十歳くらいのチャラそうな男がフラフラと近づいてきた。
こういう時は無視に限る。
速度を上げて信号を渡る。
「暇になったら遊びに来てよねえ」
バイバーイと能天気な声が遠ざかる。
早く駅に入りたい。
せっかくの余韻を不快なナンパで上塗りされたくない。
だって今日の会計は二万四千円。
増える一方だったヘソクリが数万減るのは、なかなかに心にくるものがあった。
でも大丈夫。
こんなこと、月に一度まで。
そうよ。
もうしないって思うからハマってしまうんだから。
節度を守って楽しめば危なくない。
この街とおなじ。
距離を保って、金額を決めて、お客様として楽しむ。
だって仕事はコールセンター、彼氏はほぼ不在、家に楽しみは待っていない。
たまに羽を伸ばすくらい許されるはず。
駅にたどり着き、人が溢れかえるホームでグッと足を踏ん張って電車を待つ。
ここにくるのも体力がいる。
やっぱジムに行こうかな。
化粧道具も一新したい。
もっと綺麗になってハヤテに会いたい。
滅多に会えないなら、なおさら。
デートだと思って張り切って来たい。
方向を間違えないように電車に乗り込む。
この時はまだ、自分は選ぶ側だと、余裕があるんだと思い込んでいた。