担当とハプバーで
第1章 止まらぬ欲求
そっか。
配信でコメント読むのとか見てみたかった。
「俺とか数秒で済んでるから協力してるけど、何十分も喋れって言われたらコンプラなんて気にしてらんないし」
「生で質問するにはここに来るしかないってこと?」
「そおいうこと」
振った指を今度はこちらに差す。
肌綺麗だな。
シルバーの指輪がハマった中指も格好いい。
手の甲のゴツゴツと、手首に浮いた突起も好き。
祥里の手も最初は好きだったんだけどな。
そもそも至近距離でしばらく見てない。
レスは二ヶ月目に突入したし。
「あ。ごめん。呼ばれちゃった。ちょっと無理難題でもリクエストはしっかり答える主義なんで。楽しみにしといてね」
恭しくお辞儀をして、去っていく長身を見つめる。
次のテーブルに片膝立ちで挨拶してから席に消える。
耳をすませても声までは聞こえない。
入れ替わりで来たのが、イオルだ。
身長は一七〇くらいで、鮮やかな緑のひとふさが右頬に揺れるボブヘア。
「初めまして、凛音お姫様。イオルと申します」
声は少し高めで可愛い。
「初めまして、旅動画の方だよね」
「あ、噂通りチャンネルファンの子だね。いつも閲覧ありがとうね。僕は滅多に出てないのに、さすが」
にぱっと少年のように笑う。
胸が縮むような、母性に訴えられるような感覚。
「ここ半年くらいで動画見てきてくれる人が増えてね。大抵僕は指名されないんだけど、割とナンバーが荒れてて入れ替わりが激しくなったんだよ」
それに、とハヤテの行った方を顎で示す。
「ハヤテの順位がさらに上がったのも動画の影響はあると思ってる。店内じゃそんなに接客って見れないけどさ、あんなに話が楽しいんだったら、姫も手放さないよねって」
わかる。
本当にそう。
「旅動画の時、イオルさん姫役させられてたよね」
「悪趣味だよねえ! 畳間の時のでしょ。浴衣に着替えた後さ、急に動画回し出したなって思ったら、企画用意してましたって言われて」
座布団とお猪口で擬似ホストクラブ。
あのお粗末さが良かった。
全員酔っててトークもグダグダで。
イオルが耳に指をかけて、はあっと息を吐く。
意外と横顔はシャープだ。
目にも緑のカラコンが入ってる。
「あんなに美味しい役だったのに、チャンスにできなかった僕の反省だけどね。みんな凄いよね」
仲がいいだけじゃないんだろうな。