担当とハプバーで
第1章 止まらぬ欲求
翌日大きな欠伸をしてコーヒーを飲んでいると、祥里が怪訝そうに声をかけた。
「夜更かししてんだろ」
「してない」
広告代理店に務める祥里は、黒髪短髪で、うっすらとジェルを塗って髪を立てている。
スーツ姿に恋をしたのも昔のことで、今は袖に黄ばみがあるのに勿体ないからと新品にホコリを被せているのが腹立たしい。
身長は五センチ高い百六十九。
ギリギリ百七十に至らなかったのを、酔う度にグチグチとこぼす。
生まれは二人とも関東圏で、仕事の時間も同じで趣味もほとんどかぶっている。
「今日は飲みだから遅くなる」
「へいへい」
付き合いの多い仕事というのも慣れたこと。
浮気をされても見抜けなさそうだが、稼ぎは良いので重く考えない。
「凛音。シャンプー切れてたから」
だから、なんだと言うのだ。
そのまま玄関から出ていった背中を睨む。
だから、俺が買ってくるくらい言えないの。
コーヒーカップをゆすいで、出勤の準備を進めた。
仕事は新橋のコールセンター。
九時六時勤務。
祥里の帰宅は多分二十三時。
今日もまた、見慣れた一日が始まる。
電車に揺れながら、イヤホンをつけて、昨夜の動画チャンネルに飛ぶ。
朝から摂取するホスト動画は刺激が強い。
聞き流しできそうなトーク動画を探す。
ハヤテがサムネに映っているのを条件反射で押すと、人生でヒヤッとした瞬間ランキングというトークテーマだった。
速度制限に引っ掛からぬよう、画質を最低にして、耳だけで楽しむ。
肩までの髪もそろそろ切りたいなと思いつつ。
「いや、それマジやばいって。ハヤテも前に自動車で突っ込まれそうになってたよな」
金髪ホストの高い声。
「それな。死線見えた。あ、死ぬって。夜の田舎道は危ねぇよな。サイドミラーの残骸とか落ちてたりすんの」
運転するんだ。
「でもそれより恐怖体験は、やっぱ家バレした時かな……」
「出た。ハヤテのトラウマ」
「ま、何回かこのチャンネルでも話したけどさ。この俺の風貌で、家まで特定する奴いないだろって高くくってたよね。アフターから上がったら部屋の前に立ってんの。迷わず通報したね」
そんな苦労もあるのか。
知らない世界の裏話に聞き入っていると、すぐに新橋に着いてしまった。