担当とハプバーで
第3章 踏み入れた入口
カフェ・ド・パリは初日に飲んだノンアルシャンパンよりもずっとフルーティで、口の中を甘くすることで気分を落ち着かせてくれるようだった。
ドンペリゴールドの一割の値段。
こういうチョイス一つも経験から来るのかな。
席に着くや否や「なあに、辛いことあったて顔して」と軽く、でも優しい第一声をかけてくれた。
「今の時代結婚しない人が半分なのはわかるけどさ、先のない相手と一緒にいるくらいなら、自由なフリーに戻った方が楽かなって。せめてこれで夜があればいいんだけどさ」
「あれ、幾つだっけ彼氏」
「まだ三十過ぎだよ」
「ふうん。枯れる年齢じゃねえな」
男に言われるとより刺さる。
レスってやっぱり双方に原因あるんだろうな。
ハヤテはおそらくまだ二十代半ば。
こんな問題に当たることもないんだろうな。
じーっと眺めてしまう。
金髪の時に気づいたけど、瞳が少し明るい茶色。
サングラス越しだとわからないけれど、やっぱり若い顔立ちしてた。
「ほくろの数でも数えてんの?」
視線が交差したのに気づいて、見とれてしまう。
「やっぱハヤテは顔がいい」
「なあに、改まって。独り占めしたくなってきた?」
「うん。え、いや、それは無理なんだけどさ。せめてずっと私のこと好きでいてくれる人を選べよ自分って思っちゃって」
「じゃあ、俺にしとく?」
手に持ったグラスの温度が消える。
今聞こえた言葉が、どれほど嬉しかったか。
たとえそれが百パーセント営業から出てくる言葉でも。
目線を合わせて。
いつもの余裕ある笑みを浮かべた眼で。
「ハヤテは一途なんだ?」
「惚れた相手にはね。お姫様に手を出すほど節操ない男じゃないけど。そうそう、凛音なら俺が枕してないことくらい知ってるだろ」
「うん。昔少しだけでしょ」
「そう。よく見てるね、動画」
何だろう。
目線が全然反らせない。
ただ隣に座って話してるだけなのに、心臓が痛いほど胸が詰まってくるのは。
「今まで動画見てきた客って結構いるけどさ、凛音は本当に全部見てきてくれてるだろ。俺より俺の言ったことよく覚えてる。だから、一緒にいて幸せ。これはリップサービスじゃなくて、本音」
ああ、どうしよう。
祥里への疑いで凍りついた心がハヤテの温度で溶かされていくのは、きっと許容量をオーバーしてる。