担当とハプバーで
第4章 明るく怪しい誘い
「なあ、シャツ減ってね?」
最後の夜明けのジャックから一週間後。
疑いのシャツを捨てたのにようやく気付いた祥里の質問に、とぼけるように首をかしげる。
「うーん、別に洗ってる枚数変わらないけど? どっかで脱いで置いてきたんじゃないでしょ」
「んなわけ」
「じゃあ知らない」
それ以上問い詰められはしなかった。
でも、脱いできたという言葉に一瞬焦った顔をしたのは見逃さなかった。
ホテルで脱いでいるとでもいうつもり。
いいえ、祥里は言わない。
あれからまた飲み会の日々が再スタート。
飲み会なんて本当に存在しているのかなんて、本当のことはわからない。
でも、嫌に優しくなった祥里の態度が、何かを踏み入られたくないように隠しているのはわかる。
朝食のサンドイッチを食みながら、納得いかない顔でシャツを羽織るのを眺める。
コーヒーも飲み残しはそのままに、もう直ぐ玄関を出ていく恋人の姿を。
「まだ早いけどさ、年末はゆっくりできそう?」
なんとなく尋ねたが、祥里は面倒くさげに息を吐いた。
「いやー。もしかしたら三十一日まで出なきゃかも。最悪だよ本当に。クライアントの休みに合わせるからさ」
世間が休みの大晦日にまで飲み会があるなんて、ふざけたことを普通に言うのね。
ポテトサラダがいつまでも喉を通らない。
「凛音も年末飲みとかあったら全然出てこいよ。こないだみたいに連絡なしで行かれると心配だけど、事前に教えてくれたら俺も途中で離脱しなくて済むし」
そうすれば大手を振って朝方帰りでもするの。
結局コーヒーで流し込んだ。
祥里は取引先から電話が来たと呟いて、スマホを耳に当てながら出て行った。
それまで動かなかった体が飛び上がるように玄関に向かい、扉に耳をつけた。
遠ざかっていく祥里の声は、取引先というよりも親しい友人と話すような砕けた口調だった。
ーいや、やっと解放されたよー
ー年末? 一緒に泊まろうぜー
ー大丈夫。うちのは鈍いからー
きっと幻聴。
疑心暗鬼ってこういう状態なのかな。
虚しく耳を扉から離して、テーブルの皿をシンクに移す。
手早く水洗いを済ませて、仕事バックを肩にかける。
あ、そうだ。
動画見ないと。
イヤホンを耳につけてから、お気に入りの動画のプレイリストをシャッフル再生した。
あれから動画は更新されてない。