担当とハプバーで
第4章 明るく怪しい誘い
サクはテーブルが空いていないので、隣の壁にもたれるようにと、こんこんと壁をノックした。
それに従って隣に並ぶ。
しげしげと顔を眺められて、顔を背ける。
「あー、さっきことらさんに捕まってた子だ」
「誰に話しかけたらいいかわからなくて……」
「一人の男には話しかけづらいもんね、わかるわ。オレも最初の頃は下手なナンパみたいに女に声かけてたんだけどさあ、最近はいい感じに酔ってきて、よく喋る女の会話に後から参加って感じが多かった」
ウイスキーをごくりと飲み、上下する喉仏につい目線がいってしまう。
土木関係かトラックかな。
筋肉が見せる用というよりも実用的な体格。
「だから、乙葉さんがこうしてきてくれんの嬉しい。珍しいっていうか」
「サクさんは、力仕事の方ですか」
返事がないので見上げると、サクはプレイルームの灯りが消えるのを確認していた。
視線に気づいて振り向くと、ニヤリと微笑んだ。
「仕事の詮索はエヌジー」
「あ、すみません」
「あそこね、プレイルーム。さっき入ったのが女二人に男一人だった。どんなプレイしてきたんだろうね」
つい興味が出てしまい、扉の方を見つめる。
重そうな扉が開いて、夜職のような派手な服装の女性が二人出てくる。
確かシャワーも中にあるから浴びてきたんだろう。
少し濡れた髪が艶やかに揺れる。
その扉を支えていた手の後ろから、男が現れた。
「なん……」
時刻は二十二時。
夜明けのジャックはまだ営業中のはず。
火曜日以外は店に出てるって。
オールバックの髪に、光沢のある紺色のシャツ。
気だるそうに出てきた長身。
時がゆっくりすぎるように、目に焼きつく。
サングラスをかけていない剥き出しの悪い瞳。
見間違えるはずがない。
ハヤテだった。
「喫煙ルーム行きたいんだけど」
女二人への興味はもうないとばかりにバーのスタッフに声をかけて、目の前を通り過ぎてから男性用ロッカールームに消えていく。
一瞬だけど香水の香りも同じだった。
思考が停止する。
最後のドンペリコールが脳裏に反芻する。
返信していないメッセージも。
「すっげドライだな。乙葉さんああいいうの好み? あとで話聞かせてもらおっか」
サクの提案がトンネルの向こうから小さく響くように、かすかに鼓膜に届く。
「あの人、よく来ますか」
つい好奇心が。