担当とハプバーで
第4章 明るく怪しい誘い
「あ、はい。お願いします」
飲みかけのグラスをカウンターに置いてから、そそくさとついていく。
視界の隅で一人残されたことらの視線を感じた。
客たちの間を縫って、ロッカールームの手前の角で立ち止まると、そこの小さな扉を指差した。
「こちらが女性用のお手洗いです。スタッフも利用しますので、ご理解ください」
「わかり、ました」
振り向いた男がそっと近づいて囁く。
「ことらさんは新入り女性のアテンドが大好きですが、少々強引な会話もございます。もしよろしければ他の男性の元へご案内しますよ」
「えっ」
会話は聞こえていなかったはずなのに。
手を握られた時の嫌悪感を思い出す。
男は返事の間も与えずに、今度はプレイルーム前に向かう。
「こちらが談笑するバー空間ですが、扉の向こうはプレイルームになります。会話の相性が良かった方や、濃密な関係を持ちたい方が入場できますが、事前にスタッフへの両者の意思確認が必要になります。双方の同意がなければ入れませんので、万が一望まぬ相手の場合はここでお断りください。事実確認後に悪質な行為が認められれば、相手の男性は出禁になりますので」
「徹底してますね……」
「身一つで女性に来ていただいているのです。スタッフが守らなくて成り立つ場所ではありません。もちろん会話はお気の向くままに自由にお楽しみください」
スタッフの質を褒める口コミを思い出す。
来ている男性よりも外見が良く、評判も高い。
なるほど、確かに清潔感が違う。
「それでは案内は以上になります。どちらのお席に戻られますかね」
これが最後のアテンドですよとばかりに、冷静な声。
さっき場内を見渡した時に気になった、金髪で大柄の男性の元にお願いした。
「ああ、あの方は一年前からご利用されているサク様ですね。見かけのインパクトとは裏腹にとても優しい方です」
ことらはすでに自分の元に戻らないのを悟ったのか、ジンとゆあの元に参加していた。
グラス片手に壁にもたれていたサクが、近づいてきた私たちに顔を上げる。
「こんばんは、サク様。こちら本日初めてのご利用の乙葉様です。ぜひ乾杯をと」
「オレのこと勧めたの? それとも気になってくれた? 乙葉さん、よろしく。強いの飲んでんじゃん」
そういってサクが掲げたのがウイスキーロックなので、冗談かもしれない。
「よろしくお願いします」