担当とハプバーで
第5章 呼吸もできない沼の底
二ヶ月ぶりの店内は、金曜夜というのもあっていつもより人が多かった。
新宿のハプニングバーの中では小規模なインテイスは、大体男女合わせて十名いれば及第点。
それも人が増えてくるのは二十二時からなのに、二十一時の時点で十五人ほど。
ロッカーでシャツを着替えて、店ではブレーキをかけたアルコールの代わりにソルティドッグを一杯目に頼んだ。
頻度が高くないせいか、見覚えのある女性はいない。
男性客は以前見かけたのが三人ほど。
万が一にも担当の姫が来ていないか、素早く全員の顔を確認する。
ホスクラに金を落としたい女性が、ここに来る可能性は少ないと踏みたいが、風俗への勧誘のために出会い系でサクラアカウントから客引き行為はよくあること。
クラブでホストがナンパするように、ここでも風俗嬢が営業していたって不思議はない。
「こんばんは。私たちすぐに相手してくださる方を探しに来たんだけど」
最初に声をかけてきたのがその姉妹だった。
姉妹といっても真偽は定かじゃないが、容姿のよく似たチェック柄のショートドレスの二人組。
長髪とショートで、店内で目を惹く美人ペア。
手にしたカクテルがサイドカーというのが出来すぎている気もする。
「俺以外にもいると思うけど」
「そんな不満そうな目つきしておいて、断るの?」
「私たちより話したい人がもういるの?」
生意気。
年齢はおそらく二十後半。
容姿を使った仕事をしているのか、姿勢もオーラも自信満々。
こういうのはあまり姫にならないんだよな。
いや、タツのエースに似たのがいたか。
カウンターから身を離して、一歩近づく。
「オーケーってこと?」
「二人同時なら」
「もちろん」
喫煙ルームで煙を吐きながら、帰ろうか考えていた。
自信満々の割には普通のプレイの二人だった。
息の合った攻め方に落ちる男は多いと思うが、表情が崩れないのは面白くない。
盛り上がりきらずに一時間で終わった。
店内に戻り、二人組が帰っていないのを確認して、互いに不満が残る出会いだったな、と自嘲しながら二杯目を注文する。
さっきより三人ほど増えた店内で新顔を確認したのは、半分飲み終えてから。
いるはずのない顔がそこにあった。
人違いかと思った。
しばらく会っていなかったから。
確信してから自然と頬が緩んだ。
逃がさねえぞ、凛音。