担当とハプバーで
第5章 呼吸もできない沼の底
喉が渇いて上手く声が出ない。
だって何を言えばいいのかもわからない。
聞きたいことは沢山あるのに。
今日は仕事どうしたのって。
なんで動画更新してないのって。
さっき女性二人と何してたのって。
どうして見て見ぬ振りせず呼び寄せたのって。
意識の外で唾を飲む。
サングラスをかけてないむき出しの目が、こちらを見下ろしてくる。
「あの」
「なんて名前?」
「えっ」
答えに詰まっていると、ハヤテが前かがみになって耳元で囁いた。
「店員が見てる。店外で関係あるやつだと思われると目つけられんの。今日はなんて名乗ってんの」
「あ……乙葉」
「ふうん、似合ってんね」
耳が。
耳が喜んでる。
離れた後も、体温と吐息がそこに残っているようで、バクバクと相変わらず心臓がうるさい。
「あ、えと、そちらは」
ハヤテの向こうで確かにスタッフがこちらを見ているのに気がついた。
知人が連れ添ってこないというのは、トラブルの元になりやすいのかもしれない。
なんだか立っているのがハラハラしてきて、ハヤテの隣のカウンターにもたれた。
肩が当たりそうな距離感は、あの日と同じ。
白の革張りのソファがないだけ。
「あの、なんて呼べば……」
「うん? ああ、エイイチ。似合わんでしょ」
うん、似合わない。
でも、ハヤテらしいよ。
だって頭文字でしょ。
「アルファベットのH、から?」
「さっすが。俺の適当さわかってんじゃん」
かあっと熱くなってしまう。
すごく褒められた気がして。
腰元に手が添えられたかと思うと、ぐっと引き寄せられた。
見上げると鼻が触れそうなくらい近くにハヤテの顔。
やばい、息が止まりそう。
「他の奴らが使う前にさ……」
ハヤテの吐息が自分のと混ざる。
「早いとこ二人きりになろか」
首が動かせない。
合わさった視線をずらせない。
腰を支える腕がたくましくて、密着した肌がなんだか熱くて、全身の血が滾るようにふわりとする。
「あ……私、初めて、で」
プレイルームの利用方法がわかっていないのを伝えようと絞り出した言葉。
一瞬真顔になってから、顔をそらし笑いに震える。
大きな手の甲で自分の口元を隠して、クスクス。
恥ずかしさに固まっていると、笑顔で振り向いたハヤテが嬉しそうに言った。
「常連じゃなくて安心した」