担当とハプバーで
第6章 墓まで連れ添う秘密たち
腕力と怒声でねじ伏せるなんて卑怯だ。
我慢したくても目の奥から涙がこみ上げる。
「い、いい加減にしてよ……夜に一緒に寝たのなんていつが最後だと思ってんの。祥里がどこで浮気してたって私は知る由がないんだよ」
ギチリ、と腕が捻られて咄嗟に振り払おうと後ずさる。
でも、祥里は離してくれない。
「俺に疑うってことはお前がしてんじゃないの」
あ、視界が真っ暗。
祥里の口元だけが闇に浮かんでる。
「送迎会だって怪しいもんだよ」
図星を突かれた動揺と、だったらあんたはどうなんだと言う怒りで頭が熱くなる。
でもここで言い返したらダメ。
口をつぐんで。
言葉を飲み込んで。
何を言っても今は火種になるだけ。
「定時で上がっても美味い飯の一つないじゃん」
吐き捨てるように。
腕が解放されて、シンクにもたれる。
食べかけの皿をそのままに、祥里は荒々しく玄関から出て行った。
何これ。
なんなのこれ。
もう浮気どうこうじゃなくて破綻してるよ。
対等じゃない。
それから自分を祥里に重ねる。
図星を突かれると人は凶暴になる。
ああ、そうだよ。
だったらこっちも好きにやらせてもらう。
寝室によろよろと移動して、祥里のクローゼットを開き、引き出しが四段ついた簡易棚を下から開けていく。
二段目に、会社からの封筒が詰まっていた。
絶対互いのクローゼットは開けないって。
同居するときのルールの一つ。
でももういいよ、バレても。
深呼吸をして、最新の封筒を開き、給与明細の紙を広げて目を走らせた。
予想通りの数字に笑いがこみ上げる。
一人残された部屋で乾いた笑いとともに祥里のベッドに倒れる。
「むしろ減給されてんじゃん。ばか」
これにすがる意味あるんだろうか。
母親に電話してしまおうか。
携帯のカメラで写真を残してから、元どおりに封筒を配置する。
冷めてしまったコーヒーを飲みながら、ハヤテのメッセージを開いた。
最後の営業メールで途絶えたチャットを。
たった十二時間前には、あの部屋に居た。
まるで現実味がないけれど、確かにハヤテと居た。
火曜日って三日後じゃない。
週に一度の休みの日なんでしょ。
また、あのバーで、もし会えたとして。
一体人生の何が変わるんだろう。
スタンプを送信しかけた指が止まって、画面を消した。