許容範囲内
第4章 疑う
前回二階堂と二人で飲んだのはいつだろう。
大抵は五木かオーナーも一緒だった。
サシは一度もないか。
噂程度に認識していたとはいえ、やはり警戒もあったのかもしれない。
妻帯者だったのも大きい。
「一川ちゃん、先入ってるって」
「そうですか」
店頭で告げられ、既に中にいるのだと意識してしまう。
五日ぶり。
どんな温度で話していたかも覚えていない。
一川……一川……少年で、食べ方が純粋で。
賑わっている橙色の店内を奥に進み、階段を上って落ち着いた二階に足を踏み入れる。
テーブル席の一つから声がした。
「こっち、鈴夜さん」
「おー」
名前呼びだと。
一瞬眉を潜めた自分に戸惑う。
それぐらいどうだというのか。
グレイのシャツに、黒いパンツという某国産メイカーのポスターにでもなりそうな格好で、一川は手を振った。
つい自分の姿を確認する。
チャラくも誠実でも面白くもない配色。
「八条さんもいらしたんですね」
邪魔なのか。
「ああ、二階堂先輩に誘われたんだ」
「何頼んだの?」
「コークハイボール」
「同じのにしよう。八条ちゃんは?」
「あ、ハイボールで」
呼び鈴に指を伸ばし、一川が店内を見回した。
「そんなにいそがしくなさそうだから、すぐ来るよ」
「そうだな」
何故二階堂にはタメ口で、自分には敬語なんだ。
悶々と苛立ちを感じている己に呆れる。
嫉妬に苦しむ彼女か。
上座に二階堂が座り、その隣に一川が腰かける。
必然的に向かい席に八条が腰を下ろした。
デジャブを感じたのは、あのモーニングだろう。
「その……根本的な質問なんですけど、二階堂先輩は一川くんとよく会ってるんですか」
最初に聞くべきは何かと考えた結果だった。
きょとんと眼を丸くした一川の頭を、二階堂が優しく叩く。
「五日前か? あのあと色々話してな」
「色々」
「またゆっくり話したいからって二回くらい飲みに行ったんだ」
「二回」
「八条さんの話も聞いたんですよ。ルフナに来てからのこと」
自分がいない場で、自分のことを話されたと思うと気分がいいものではないなと、改めて実感する。
美映の実家の親族から電話が来た時を思い出すようで。
ああ、そういう風に伝えていたのかと。
知りたくないものだ。