許容範囲内
第4章 疑う
それから四日間は、夢のように通り過ぎて何も残さなかった。
一川からは何の連絡もなく、二階堂も職場では特に触れなかった。
五木と九出は何かないか尋ねてきたが、何もないのだから語ることもない。
そうしていると、一週間前までのような日々が当たり前に思えてきた。
一人で過ごす部屋が当たり前に。
その間には七瀬復帰飲みがあったくらいで、それ以外はさもしく料理をして晩酌を楽しんだ。
今日が五日目。
五木や九出の予想は見事に外れたわけだ。
このまま、会えなくなっても不思議じゃない気すらした。
「八条ちゃん、飲みに行かない?」
二階堂のこの言葉までは。
「サシですか」
「一川ちゃんも呼んであるけど」
メイン料理を焦がしかけたのは離婚翌日以来だった。
にやりと微笑んで、足元の棚からオリーブオイルの缶を取出し、容器に補充する二階堂を見下ろす。
どうにも名前のつけられない感情とともに。
今、何を言ったのか。
あのモーニングの日に連絡先でも交換したんだろうか。
あれから二階堂は一川と会っていたのだろうか。
二人で飲んでいたのだろうか。
七瀬復帰飲みで妙に早く帰ったのは二次会で一川と飲みに行っていたのだろうか。
ぐるぐるとそれまで考えもしなかった疑惑が渦巻く。
また、何故上がる半刻前にそれを言うのか。
ロッカーの前でもよかったじゃないか。
火の調節の感覚が頭から抜けてしまった。
普段の数倍慎重にレシピを思い返す。
「十二番のソテーあと何分?」
「一分で出します」
オーナーの声には条件反射で返せたのだが。
二階堂の言葉には返事ができなかった。
私服に着替えて外に出ると、二階堂が車のキーを回しながら待っていた。
「どこ行きますか」
「どこがいい?」
「商店街の入り口の焼肉屋どうですか」
「いいねー」
ゆるく会話をしながら歩き出す。
何となく飲みを予感して車は置いてきていた。
二階堂の運転で近くの駐車場まで車で移動する。
八百万は下らなそうな高級車。
内装もアレンジして、スタイリッシュな寒色で仕上げてある。
他人の車内の匂いは苦手だが、先輩相手に口をつぐむ。
「八条さんて、食欲ピークいつだった」
「高校二年ですかね」
「今三分の一?」
「もう少しいけますよ。二階堂先輩は?」
ハンドルを切りながら笑う。
「今がピーク」