月のウサギは青い星の瞳をしているのか 〜キサンドリアの反乱〜
第10章 ビクトリア
「それで? アンタ、どうするつもりなんだい?
このまま残りの人生をコソコソ隠れて暮らしたいわけじゃないだろう?」
ビクトリアは受け取ったコーヒーを一口飲み、3人に問いかける
「もちろん、テロリストの汚名は晴らしたいわ
でも…
タイミングは今じゃないと思うの
いま捕らえられたらネオ・ジオンに売られて闇に葬られることになるだけだわ
そのタイミングが来るまでは……
月面から離れたほうがいいと思うの」
それを聞いたスコットは無言で頷く
「……そうは言っても、月面は連邦部隊の監視はあるし、ましてや月の裏側ではネオ・ジオンが躍起になってるだろう?
なかなか月面から離脱するのは困難では……?
んん? 離脱か…
もしかして……
アンタたちが私のところへやって来た理由って、鉱山用のマスドライバーを使おうとしているのか?」
マスドライバー
長いレールを月面に敷いた軌道施設
月面で採掘された岩石はマスドライバーにより高速射出される
それらはスペースコロニーの建設材料として宇宙を飛び交うのだ
「私たちが乗ってきた〈フネ〉に大量の岩石を圧着させ擬装させます
ビクトリアはそれを打ち出して欲しいの」
ビクトリアは呆気にとられ、大笑いした
長年鉱山の仕事をしているが、そのような脱出方法など考えたこともなかった
そこにキアラも加わる
「ちなみに……その岩石擬装はすでにほぼ完了している
〈アガルム〉のクレーターの外縁部でな」
「キアラ……キミは一体何者なんだい?」
ビクトリアは真顔で畏怖してしまう
目の前の子供は見た目どおりの子供では無いのだろう
「わたしは〈オルタナティブ・キアラ〉
キアラの〈代わり〉さ」
少女はにやりと笑った