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時給制ラヴァーズ

第4章 4.センターラインを越えて

 例えばこれで「なに言ってんだ」と返されたら、そのまま自分の部屋に帰ってしまおうと思った。
 どうせちゃんと見られることのない小道具なら、使ってても使ってなくても関係ないと言われれば、まさしくその通りだと俺も思うから。
 けど、考え込むように黙った慶人は、もう一度段ボールを開いて。

「……これもバイトのうちに入るか?」

 と眉根を寄せた恐い顔で聞いてきた。その表情に、自分で言ったくせに一歩後ずさってしまいそうになる。
 慣れたとは思ったけど、やっぱり笑ってない慶人はちょっと恐い。

 それでもたぶん、二人とも少し、いやだいぶ動揺しておかしくなっていたんだと思う。おとぎ話のようなテンションで生ぬるい計画を立てていた俺たちには、今日一日で色々ありすぎた。
 そうじゃなかったら俺がこんなことを言い出すことはなかっただろうし、慶人だって受けはしなかったんじゃないかと思うんだ。


 言葉で話さなかった分、どうにも海の車のことは確実に俺たちに強く影響を残していたらしい。

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