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時給制ラヴァーズ

第4章 4.センターラインを越えて

「なんか、ちょっと緊張すんね」

 それにしたって、こんな広いベッドに初めて寝る理由がこれってのは考えものだ。
 でもまあ、一度くらいここの寝心地を確かめておくのも必要だったんだと思えばいいのか。
 ……そう、これは必要なこと。

「じゃあ、その、これから恋人のふりってことで」

 ベッドヘッドに寄りかかる俺と自分に言い聞かせるようにして、少し戸惑った表情のまま慶人がベッドに乗ってくる。
 一番初めに「恋人のふり」をするということになった時、こんなことになるとはさすがに思っていなかった。というか慶人だって思っていなかっただろう。ふりと言ったところで最初はもっと漠然としたイメージしかなかったはず。
 それがまさかこんなことになろうとは、誰も予想してなかったはずだ。そのせいなのか、意外と危機感は薄い。

 正直、これがもっとこうわかりやすく下心を持っているような、自分よりもでかくてガタイのいい男相手だったら恐怖を覚えていただろうし、こんなこと了承するとかしないとかの前に俺がこんなことを言い出すことはなかっただろう。

 それでも、慶人の日々の困りっぷりを見ていると、なにかしてあげたいって思ってしまうんだから仕方がない。
 それぐらい、ほぼ毎日の電話や送られてくるお見合い写真は他人事ながらげんなりしたから。

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