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ミニチュア・ガーデン

第6章 喪失した道

 水気を拭き取って適当に服を着てリビングに出ると、ソファに座っていたラークが怯える様にそろそろと降りて部屋の隅に逃げて行くのが見えた。フェイクはそれを黙って見ているだけだ。無理に慣れさせようとしても逆効果だと知っているのだ。
 隅で膝を抱えてビクビクしているラークに視線を向け、ガルクは部屋に入る。
 近寄って、抱き締めて「何もしない」と言ってやりたかった。だが、それではあの時の彼とは違ってしまう。あの時の自分と同じ行動をとって、あの時の彼と同じ状態にならなければ、何の意味もない。
「ほら、大丈夫。何もしないだろ?」
 背後からフェイクの声が聞こえ、自分のせいじゃないと知っていても、彼にここまで怖がられる事が悲しかった。
 ガルクを恐れ、フェイクには少し心を開いているのは、ガルクが特別なのではなく、フェイクが特別だからだ。今のラークにとっての恐怖の対象は大人ーー特に成人男性だ。暴力を振るわれ、助けを求める友達を目の前で殺され、命乞いする姿を笑われ、そしてゴミとして彼を捨てた人間の多くは男性だったのだから、それは当然だろう。女性は虐げられる方が多かったらしく、怖がりはするが、男性程ではない。
 ガルクはため息を吐く。
 フェイクがいなくなれば、彼は自分に首を垂れる。何をされても無抵抗で、従順になる。それはつまりガルクの物になる。
 だが、それでは意味がない。キスやセックスでも応えるだろうが、そこに想いがなければ意味がない。

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