テキストサイズ

ミニチュア・ガーデン

第1章 無

「ラーク、お前は大人だ。もう、そんな事は、起きないから」
 ガルクはそう囁き、彼の細い肩にそっと手を置いて軽く抱き寄せる。胸にもたれかかる重量の軽さは、今以上に増える事はおそらくない。体の組織自体がこれ以上になれない様になっているのだ。
 傷を癒す力はあっても、筋肉も脂肪も増加しない。
 それはまるで、彼が削った命が元に戻らないのと一緒だと、ガルクは感じている。
「俺は、もう置き去りにされない?」
 不安げに、彼は尋ねる。
「ああ。絶対にそんな事はしない。俺は絶対にお前を捨てないし、先に死なない。約束だ」
 彼の全ての不安を拭い去る事は出来ないと知りつつ、ガルクは甘い囁きを返す。それしか自分に出来ないと思い知っているのだ。これ以上の事をしようとしても、彼の心は受け入れられない。
「ラーク、愛してる。この世の全てよりも、お前が大事だ」
 自分の言葉に酔う様に、ガルクは虚ろに呟く。それは、彼に対して囁いた物ではなかった。

 ガルクは、ラークの言う孤独を知っているのだ。絶望と渇望、後悔と悲しみに打ちのめされ、生きる気力を失い、自分の殻の中に閉じこもったきり、そこから抜け出す術を見出せないでいる。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ