テキストサイズ

ミニチュア・ガーデン

第1章 無

 手を離せば失いそうで、ガルクは彼を両腕で抱え、座り込んでしまう。
 一歩でも動けば何かが起こる。その何かがガルクは恐ろしかった。全てが彼を失う事に繋がると、そう思い込んでいるのだ。彼を失う位ならば、死に包まれていた方が良い。悲しさも苦しさも、寂しさも何も感じないならば、ガルクは死を甘受する。
「落ち着けって、な? 俺は、お前の所以外、居場所が無いんだぞ? どこかに行くわけがないだろ」
 きつく抱きしめているのに、彼は苦しさを隠して、いつも通りを装う。自身の脆さも知っているが、ガルクの弱さも知っているのだ。こうして、自分で制御しきれない弱さを露出している時は、無条件で包み込まないと崩壊してしまう危険性があるのだ。
「うん……」
 いくつか零れてしまった涙を拭い、ガルクはようやく彼を離す。
 良かった、と安心するように微笑む表情は、男性的な臭いが全くしない、まるで母親が子供向ける様な表情に似ている。慈しみ、と言うものが多く含まれているからであろう。
「ほら、立って。行こう?」
 白く細い手を差し出し、彼はガルクを誘う。
「少し歩けば、気が紛れるよ」
「うん」
 ガルクはその手を握り、立ち上がる。
 彼から伝わる体温にこれ以上の無い安心に包まれ、その幸福感に、胸が締め付けられる様な悲しみが和らいでいく。
 彼はここにいる。それだけで良かった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ