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ミニチュア・ガーデン

第1章 無

 不意にラークがキュッと手を握り返してきた。
「どうした?」
 尋ねると彼はガルクを見上げ、なんでもない、と言うように微笑んだ。負の感情など感じさせない綺麗な微笑なのだが、ガルクにはそれが心の奥底で、不意に湧いた恐れを誤魔化す物だと解ってしまった。
 彼の僅かな心の動きも知りたいガルクは、本人に気づかれない内に覗き込む。
 それが何なのか気づいていないが、細身の女性の肩に下心丸見えの男性が触れている、その手つきを恐れたのだ。ねっとりと絡みつく動きには、彼も覚えがあり、今、自分の手を握っている人が、それだけを求めているのではないかと心の奥底で思ってしまったのだ。
 そんな無意識の心の動きに、思わずフォローを入れたくなるガルクだが、口にして恐れを明確化してしまうと、彼はそんな風に考えた自分に罪悪感と嫌悪感を感じてしまう。何もかも投げ打って自分との生活を選んでいるガルクを貶してしまったと思い込んでしまう。
 それは、ガルクとしても重荷になってしまう。ならば、何も言わずにそこはかとない恐れを抱いている彼の心に気づかないふりをして、彼の言うように街を歩いて気を紛らわせるのが一番だ。

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