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ミニチュア・ガーデン

第4章 幸せへの崩壊

「みんな殺した。一人で殺した。もう殺したくない。でも、可哀想なんだ。良い人だから可哀想だから……殺した。死にたい。殺して。死にたい。殺して……」
 それからは、それしか繰り返さなくなった。
 哀願の言葉を漏らし、時折体を揺する程度で、人間らしい反応は示さなくなってしまった。
 刑事は看守に礼を言うと立ち上がり、看守は一礼して彼を元の部屋に連れて行く。写真を見る限りでも、どの事件も凄惨で、ザッと見ただけでも十件はありそうなのだが、今まで捕まらなかったのか疑問に思う。彼の様子を見ても、性格を考えても、計画的な犯行ではなく、隠蔽工作をする事も無かっただろう。むしろ、捕まえて欲しくて何かしらの行動をしていたと思える。
 部屋に戻されると、彼は布団に寝かされ、また施錠されて閉じ込められた。
「殺して……死なせて……」
 虚ろな目で、呆然と繰り返す。
 ガルクは投げ出された人形の様になっている彼の横に寝転がり、哀れな体を愛撫する。どこも骨と傷跡だらけで、猫の様なしなやかな筋肉の感触も、滑らかな曲線もない。ゴツゴツとした、硬い感触だけだ。
「ラーク、おいで」
 無理に力を入れると壊れそうで、ガルクはそっと、優しく彼を腕の中に入れた。抱き締めるには、自分の太い腕の重さすら彼には負担になると思ったからだ。
「愛してる、ラーク。俺が守ってやるから、ゆっくり眠れ」
 額にキスをすると、彼はまるで理解した様に目を閉じた。
 彼が安心出来る様に、何度も何度も頭を撫で、背中を撫で、体を愛撫した。

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