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ミニチュア・ガーデン

第4章 幸せへの崩壊

 いくらか安らかになった表情で彼は浅い眠りについた。あまりに軽く、ゴツゴツと硬い体はそんな呼吸も辛そうで、時折苦しそうに喘いだ。
「ラーク、苦しいか?」
 ガルクは声をかけ、痩けた頬に触れて活力を与える。ガルクの力を使えば、今の彼でも健康な状態にさせる事は出来る。正気に戻して、罪を償わせる事も、罪を無かった事にする事も可能だ。時間を巻き戻す事も、可能だ。
 だが、ガルクにはそのつもりはない。
 心のどこかで、腕の中にいる彼も、所詮は有機物ロボットだと思っているからだ。本当に会いたい彼は遠過ぎる過去に死んでしまったのだから。

 呼吸も楽になった彼の額に額をくっつけ、ガルクは目を瞑る。この世界が出来てから、彼が生まれてから何をしていたのかを、見ようとしているのだ。彼の口から語るのを待っていようと思っていたが、あの様子では、彼が力尽きる方が先だからだ。
 深呼吸をするように、ガルクの意識は彼の中に入りこむ。風が吹き付けるように、水が流れ込むように、彼の心に自然に入り込む。

 彼の心に入り、最初に見えたのは、闇と血。どこまで行っても続く、黒と赤の世界。血と、酷い汗の臭いが漂い、鼻が曲がりそうな悪臭に吐き気がする。
 何か、くぐもった大きな音が聞こえ、どこからだと探すと、赤と黒の世界にぽっかりと穴が空いていると気づいた。
 近づいて覗き込むと、水の中から覗いているような、非常にぼやけて歪みながら、外の映像が流れていた。

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