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ミニチュア・ガーデン

第5章 縋るもの

「もう嫌だ! 死にたい!」
 彼は叫ぶ。力の限りに叫ぶつもりだろう。叫んで訴える事しか彼には許されていないのだから。
「死ねないんだよ! お前は死ねないんだ!」
 ガルクも夢中になって叫ぶ。
 銀髪を振り乱し、プラスチックの椅子の上で暴れても、ガルクの拘束が解けるはずがない。見た目に反して力は残されているが、本人の体力がないのだ。
 それを示す様に十分もすると、彼の抵抗は緩やかになり、悲鳴も上げなくなり、縋る様にガルクを見つめるだけになってしまった。
「俺は……普通に生きたかった……」
 真っ直ぐにガルクの目を見て、彼は言う。
 その瞳からは、わざわざ心を覗かなくても解る程の切望と絶望と渇望を湛え、涙となって零れ落ちそうだ。その瞳を前にガルクは言葉を失い、彼から手を離した。
 胸に突き刺さる痛みが、なんと言う感情から来るものからなのか、ガルクには解らない。ただ、痛くて苦しかった。
「これから、生きよう。普通に……」
 絞り出した言葉は嗚咽混じりで、喉にひっかかり、上手く紡げなかった。
「もう……嫌だ……」
 彼はそう答えた。
 呆然と、絶望しかない声で。

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