テキストサイズ

ミニチュア・ガーデン

第5章 縋るもの

 彼を布団に寝かせ、ガルクは涙を流しながら彼を撫でる。床を転がる食器などどうでも良かった。ただ、彼があまりにあわれで、胸が痛む。
「ラーク、ごめん。こんなになるまで探しに行かなくて……」
 彼から応えなどなく、ブツブツといつもの独り言を漏らす。
 頭を撫ででも、艶やかで滑らかな髪の感触などなく、ボサボサでささくれ立ったような固い感触しかない。それもあまり撫で過ぎると抜け落ちてしまい、薄くなっている部分がある。解っていても、抱き締めると壊れてしまいそうで、弱った体を折ってしまいそうで、撫でるしか出来ない。
 彼の独り言がふと止まる。気が済んだのではなく、言葉を発するのも辛くなったのだろう。
 隈に縁取られた、酷く濁った瞳は虚空を見て動かず、呼吸音がまだ生きていると、死ねずにいると悲鳴をあげる。
 ガルクはカサカサの唇にキスをして、布団から出る。食器を片付けに、食堂に向かうためだ。本来は食堂で一斉に食べるのだがそれも困難な場合は部屋で食べ、それも係りか看守が片付けていたのだが、今はガルクがいるので、それもしない。
 床の上で引っくり返った皿とスプーンを拾い、トレイに乗せて扉を開け、もう一度布団の中にいる彼を見て、扉を閉めた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ