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ミニチュア・ガーデン

第5章 縋るもの

 ガルクはもう一度、力を入れる事が出来なかった。
 筋肉を分解してまで生きながらえた体は、骨も分解して脆くなっていたのだ。それが、どれほどの苦痛だったのかをこの一瞬で理解してしまった。
 生きていて欲しいと切に願った。だが、今の彼を蘇生させる事が出来ない。
 ぐったりと横を向いた彼の口から、スープがダラダラと流れる。それを飲まされ、生きるのがどれほど苦痛だったのだろうか、とガルクは今になって初めて考えた。
 目が熱くなり、世界が歪む。耳が痛くなる程の静寂に、嗚咽が波紋を生む。
「うっ……うっ、ラーク……俺は、またお前を……ラーク、ラーク……」
 ガルクは記憶の中の彼を思い出しながら、遺体となってしまった彼を抱き締める。
 口から漏れ出るスープがガルクにもかかるが、そんなものは気にならない。ダラダラと失禁もしてしまっているが、それもどうでも良い。
 彼は、ガルクの愛したラークの姿は、その遺体は、こんなに綺麗ではなかった。それが何故、彼だと断定出来たのかと問われると、その変わり果てた遺体は、長い銀髪であったからだ。もし、それが無ければガルクでも彼だと認識出来なかっただろう。それが、彼の最期の姿だった。

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