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ミニチュア・ガーデン

第5章 縋るもの

 ガルクはもう二度と動かない体が、徐々に冷たくなっていくのを感じならが、それでも離せなかった。
 あの時もそうだった。そばにいたガルクですら、髪の色でしか認識出来ない程になった彼を、泣きながら抱き締めた。周囲の人が制止に入り、手放す様に説得したのだが、ガルクの耳には入らなかった。

 腕の中の彼を見る。
 死してなおその顔に安らぎはなく、苦しそうに喘いでいる。目が閉じられているのが救いだと思えるだけで、口は開かれて流れ出たスープや唾液が顎を濡らしている。あまりに軽い体から、魂すら抜けて更に軽くなり、全く動かないせいか、尚更人形の様に思える。

 あの時の彼は、どこに埋葬しただろうか、と遠い記憶を探る。そして、全く思い出せない事に気づいた。
 何故だろう、今でもこんなに愛していると言うのに、一度も墓参りに行かず、そもそも葬式に参列した記憶すらない。ずっと行きたいと思っていたのに、行けなかった、と言う記憶が残っていると気づく。
 ああ、そうだ。とガルクは思い出す。
 その理由は、ガルクが王だったからだ。一国の王が同性愛者であると言うのはあまりに由々しき事態。それゆえに、彼が死んでしまったと同時に、彼の存在は社会的に抹消され、ガルクは城に戻さたのだ。それで、彼を追って死ねず、何年も監視下に置かれ、用意された女達を抱き、傀儡の王として玉座に座っていた。

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