真夏の夜の夢
第4章 第三夜
磯良は両親から
「女はおしとやかにしておきなさい」と
命じられていたから
婚姻後一年経っても
夜枕(よまくら=セックス)の
夫婦の営みで喘ぐこともせず
正太郎に抱かれても
手拭いを口に当て
食い縛り自ら進んで腰を振ることもなく
ただひたすらに
なすがままの営みを繰り返した。
これでは男としては
次第に磯良から心が離れてゆき
やがて家を抜け出して
馴染みの花街のお袖と駆け落ちしてしまった。
自分よりも他の女を選んだのだと
磯良は落ち込み、
やがて体を壊して寝込んでしまった。
正太郎の両親は申し訳ないと
手厚く看護したが
甲斐なく磯良は痩せ細って
遂には息を引き取った。
そうとは知らず正太郎とお袖は
遠く離れた地で幸せな日々を送っていた。
お袖との夜の営みは至福のひとときであった。
あ・うんの呼吸で
即座に正太郎のハメたい体位に移行するお袖。
遊女として夜の相手はお手のものであっただけに
夜毎、正太郎のチ○ポを蕩け(とろけ)させてくれた。
四十八手もそつなくこなすお袖であった…
しかし、そんな幸せも長くは続かなかった。
お袖が家の中に誰かが居ると言い出したのだ。
ある日、夕げ(ゆうげ=夕飯)の支度をしていたお袖が
急に包丁を振り回し始めた。
「お袖!どうしたのじゃ!」
包丁を取り上げようにも
包丁を正太郎に向かって振り下ろすものだから
近づくこともままならない。
やがて、お袖が
「こうか?こうすることがお前の望みか?」と口走ると
包丁の刃を己の首に当て、力強く引き抜いた。
こぼれ刃の古い包丁であったが、
その刃はお袖の首をものの見事に切り裂いた。
流れ出た血は瞬く間に
白い割烹着を真っ赤に染めた。
まるで磯良との初夜で
白無垢を紅く染めたことを思い出させた。
正太郎は近くの菩提寺にお袖を懇ろ(ねんごろ)に弔った。
ある日のこと「毎日ご苦労さまでございます」と
墓で度々出会う女中に声をかけられた。
これも何かの縁と、
正太郎は女中を誘い
木陰でしばし歓談してみた。